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2012年1月

2012年1月12日 (木)

2012.1.12

2012年1月12日の作品

<作品>

誘拐サスペンスの名作に、黒澤明監督の「天国と地獄」がある。身代金の指図をするため、犯人が会社役員宅に電話を入れる。硬貨の投入音、続いて「昼日中(ひなか)にカーテン閉め切って何やってんだ」。録音を聞いた刑事たちは、高台の豪邸を見通せる電話ボックスを絞り込み、包囲網を狭めていく▼モノクロで描かれる知恵比べは、携帯電話では成立しない。昭和の昔、戸外の通信手段といえば数に限りのある公衆電話である。私事になるが、合否の報告も、上司からの怒声も「公衆」だった▼1960年代の普及期に出た『赤電話・青電話』(金光昭著)に大意こんな一節がある。「赤電話は用事があって探したものだが、昨今は赤電話を見ると用事を思い出す」。思いつきの用件やおしゃべりは、携帯メールが引き継いだ▼個人端末があまねく行き渡り、人の数だけ電話が歩いているような世である。あらゆる喜怒哀楽に介在し、85年に93万台を超えた公衆電話は4分の1に減った。店先の赤はとうに消え、なじみの緑も間引きが急だ▼しかし公衆電話には、災害時につながりやすい利点があるらしい。携帯サービスがダウンした大震災では、帰宅難民が並んだ。そこでNTTは、春から設置場所をホームページで知らせるという▼ウオーキングや散歩好きのために、公衆トイレを記した地図はよく見る。同様の駆け込み寺として、街角の電話たちが頼もしく見えてくる。古いやつにも使い道はあるんだと、公衆世代はつぶやいてみる

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2012年1月 6日 (金)

2012.1.6

2012年1月6日の作品

<作品>

好き合った人の手紙や写真を裏庭で燃やす。古い映画などにある「絶縁の儀式」は、新たな出発を示す場面でもある。恋文も庭も希少の昨今、メールやデジカメ画像を消しても絵になるまい▼警察に出頭したオウム真理教元幹部、平田信(まこと)容疑者(46)は、教祖との写真を5年前に捨てたという。法廷での情けない態度に気持ちが離れ、捨ててすっきりしたと弁護士に語っている▼容疑者は17年前の拉致事件で、運転手を務めたとされる。拉致計画は知らず、「そこまでするか」と教団への不信が芽生えたそうだ。逃亡の果ての再出発、不自由と引き換えに得ようとしたものは何か。自己弁護の山から、カルト集団の真実を探し出す作業が待つ▼特別手配され、ポスターや等身大パネルで知られた顔と長身である。その男が大みそかの深夜、皇居お堀端にそびえる警視庁に赴く。サスペンス風だが、その先はコントになる▼警備の機動隊員は冗談と思い、近くの丸の内署を紹介した。署員も半信半疑で、本人に「ほら、背も高いでしょ」と言わせている。警察は猛省だ。オウム裁判がすべて終わったからといって、胸中の手配写真を燃やしてはいけない▼警官を「説得」してまで名乗り出た容疑者である。決別してこそ話せる過去も、その覚悟もあろう。それをどれだけ引き出せるかに捜査当局の名誉回復がかかるが、真実は「出頭」してくれない。サーチライトでも照らせない。短いロウソク一本で心の暗闇に分け入り、迎えに行くだけだ

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2012年1月 5日 (木)

2012.01.05

2012年1月5日の作品

<作品>

どじょうを飼う知人がいる。名前は「どーちゃん」。おとなしくて、台風が接近すると底砂に隠れてしまう。そのくせ、すきを見て水槽を飛び出す瞬発力を備えているそうだ。臆病だが機敏、というのが飼い主殿の観察である▼「どじょう演説」の野田首相にも似た味がある。いつもはのらりくらり、慎重を旨としながら、ここ一発の意地は侮れない。きのうの年頭記者会見も一点突破の趣だった▼抑揚を欠いた受け答えの中で、こと消費増税だけは「先送りできない」と重ねて力を込めた。ついには高校で教わったチャーチルの言葉を引いて、「ネバー、ネバー、ネバー、ネバーギブアップ」ときた。水槽を飛び出す覚悟とみえる▼党内基盤が万全でない首相が不退転を口にし、なにやらキナ臭い年明けである。小沢元代表は「決起」のタイミングを計っている風だし、自民党は「日本の存亡をかけた政治決戦の年」と大きく出るらしい。「維新」を叫ぶ大阪市長らも国政への参戦をにおわす▼世界も選挙の年。オバマ大統領が再選を目ざす米国では、共和党が挑戦者選びに入った。ロシアやフランス、韓国でも大統領選がある。国を過(あやま)つ者は必ず民意に反撃される。投票にせよ、蜂起にせよ▼中東のように命をかけず、為政者を選び直せる幸せを思う。リーダーならずとも、いつも以上に立派なことを言うのが年頭の常だが、その言葉が軽すぎ、何人もの首相が選挙を待たず去った。「ネバーギブアップ」の重さ、しかと見極めたい

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