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2012年5月

2012年5月25日 (金)

2012.5.25

5月25日の作品


<作品>

人は一生の間にどれぐらい罪を犯すものだろう――と故・井上ひさしさんがユーモラスな随筆を書いていた。幼いころ、隣家の猫のひげをちょん切ったそうだ。これは立派な犯罪になるらしい▼他にもスカートめくりやキセル乗車など、あれやこれやで「総刑期」は50年を超すと、書きながらご本人が驚いている。そんな一文を、米大統領選をめぐる報道で思い出した。共和党候補に事実上決まったロムニー氏が、30年ほど前に愛犬を「虐待」したとメディアにやられた▼カナダまでの約12時間、犬をかごごと車の屋根にのせて走ったという。愛犬家たちの猛反発を受けて釈明に追われた。片や現職のオバマ氏も、自伝の中にある「インドネシアで幼少期に犬を食べた」を敵陣営に突かれた。あばき立てに時効はない▼ロムニー氏は、高校時代に同性愛者の下級生をいじめたとも報じられた。これはより深刻で、謝罪して火消しをした。信条や政策はもとより、配偶者の人柄や過去の言動まで、候補者は公私にわたって徹底した吟味にさらされる▼長丁場の総力戦は、11月の投票まで半年を切った。その「民主主義の祭り」はしかし、いつになく中傷合戦が激しいと伝えられる。醜聞を掘り起こしては煙を立てる工作員のオフィスもあるのが、あの国らしい▼肉食系のタフな戦いに勝つのはどちらか。そして、国民の投票で選ばれた正統性に4年の任期は保証される。あっさり系、すげかえ自在の日本の首相選びとはだいぶ味わいが違う。


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2012年5月24日 (木)

2012.5.24

5月24日の作品


<作品>

政治家はたとえ話がうまい。田中角栄元首相がこんな人物評を語ったそうだ。「大平は一刀流、福田は長ドス、三木はくさりがま、宮沢は小太刀」。(稲垣吉彦著『ことばの四季報』から)。いずれも自民党の大物だが、往年の政界図を彷彿(ほうふつ)とさせて面白い▼時は移って、すっかり「決められない首相」の印象に染まる野田さんである。失礼ながら、思い浮かぶのは「鉛刀(えんとう)」だ。つまり「なまくら刀」。といっても悪い意味ばかりではない。「鉛刀は一割(いっかつ)を貴(たっと)ぶ」と中国の詩句に言うそうだ▼鉛の刀は一撃すれば折れ曲がってしまう。だから一度きりの機をねらい、邪念も色気も捨てて無念無想、全力を絞れと説く。二度目はない。税と社会保障の改革で「不退転」を繰り返す首相に、さて、その気概はあるのだろうか▼答弁はよどみないが、紋切り型だ。身内の融和が何より大事な輿石幹事長をどうにもできない。そうこうするうちに、小沢元代表が勿体(もったい)顔でまた登場である。堂々巡りにうんざりとなる▼今や常套句(じょうとうく)の首相の決意を、〈幾つあるのか政治生命〉と川柳欄が一刺ししていた。自民党に秋波を送り、元代表にも流し目を使う。駆け引きをすべて否定はしないが、「保険」を捨ててこそ浮かぶ瀬もある、だろう▼中曽根内閣時代の後藤田官房長官はかつてカミソリや懐刀(ふところがたな)にたとえられた。今の藤村官房長官は「こんなに物を決めなくていいんでしょうか」と自民のベテランにこぼしたそうだ。内閣の要(かなめ)に焼きが回っては困る。


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2012年5月18日 (金)

2012.5.18

5月18日の作品

<作品>

「クイーン旋風」が日本に吹いたのは37年前の5月。初来日した英国のエリザベス女王の一挙一動は行く先々で衆目を集めた。迎賓館で畳を歩くと、公式の場で靴を脱いだのは初めてと英メディアも報じた。写真が残るが、美しいおみ足である▼日本人にも親しみ深い女王が、今年、即位60年を迎えた。英BBC放送によれば、父君ジョージ6世が亡くなった夜、彼女は旅先のケニアで大きな木の上に造られたキャビンに泊まっていた。「王女として木に登り、女王となって下りてきた」と伝説的に伝えられる。以来、英国の顔であり続けてきた▼しかし楽な時代ではなかった。戴冠式(たいかんしき)の女王のメッセージにこうある。「わたくしの戴冠式は過ぎし日の英帝国の権力と壮麗の象徴ではありません」「それは未来に対するわれわれの希望の表明なのです」▼かつての「日の沈まぬ帝国」は斜陽著しく、のちに経済は「英国病」と言われるほど停滞した。王室にも様々に波風が立った。幾山河、の感慨は深いものがおありだろう▼祝賀行事のために天皇、皇后両陛下が訪英されている。59年前の戴冠式には、当時皇太子だった陛下が参列した。英王室と皇室のゆかりは深い。心臓手術から間もないが、陛下の強い希望によるご訪問である▼時のチャーチル首相は「皇太子殿下は必ずや英国に友情を寄せられるでしょう」と歓迎会で挨拶(あいさつ)したそうだ。いま両陛下が寄せる思いは、女王にも英国民にも届くことだろう。時の流れに褪(あ)せることなく。


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2012年5月17日 (木)

2012.5.17

5月17日の作品

<作品>

ホームランの魅力に米国のファンを目覚めさせたのは、大打者ベーブ・ルースだという。生涯本塁打714本。群を抜く量産に人々は熱狂した。内田隆三著『ベースボールの夢』(岩波新書)によれば、彼の登場で、ホームランはめったに見られない偶然ではなくなった▼「あらゆる障害や抵抗を一挙に無化する、ホームへの魔術的な帰還」(同書)にファンは酔った。いきおい他の選手も飛距離を狙う。ゲームはスリリングになり大衆化したそうだ。日本では昭和の初めごろの話である▼そんな野球の華が、日本のプロ野球で激減している。統一球と呼ばれる「飛ばないボール」を去年から導入した影響とされる。今季ここまでの1試合平均は0.8本。貧打ぶりに「デフレ野球」の陰口も飛ぶ▼とはいえ「豪快」は往々に「大味」にすり替わるから、ファンも賛否があるようだ。ゲームの味わいは微妙なもので、貧打戦はお寒いが、投手戦なら引き締まる。快音響く打撃戦と、投手がへぼな乱打戦も似て非なるものだ▼いずれにしても、ボールをまた変えるのは愚だろう。打撃の成績が上がっても、選手ではなくボールの手柄になる。ここはプロらしく技と力で克服してほしい▼野球好きだった元米大統領F・ルーズベルトは、一番面白い試合は8対7だと言ったそうだ。私感では6対5ぐらいの方が締まっているように思うが、いかがだろう。昨日からセ・パの交流戦も始まった。ボールを恨まず、五月の風に球趣をのせてほしい。


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2012年5月12日 (土)

2012.5.12

5月12日の作品


<作品>

師弟の会話。「してもいない行為で罰せられることは……」「ないよ」「よかった、宿題やってません」。さるジョーク集から拝借した。やるべきことをしないのは不作為の罪。失火の放置などをいう▼インターネットの掲示板「2ちゃんねる」が去年、警察などに指摘された違法情報の大半、約5千件を放っていたそうだ。多くが禁止薬物の勧誘である。覚醒剤がアイス、大麻には野菜の隠語があると聞けば、商いの盛況がうかがえる▼掲示板にはよからぬ書き込みを消す係がいるが、警察側の要請にも反応は鈍い。他サイトがほとんどの削除に応じたのに、「2ちゃん」の削除率は3%。この緩さが重宝され、ますます売人が群がるらしい▼薬物の売買は口コミと手渡しが常道とされた。匿名掲示板と宅配便の悪用で、それがネット通販なみの手軽さになる。今や暴力団の金づるにして薬物中毒の始発駅だ。取引には、やはり掲示板で売買された口座や携帯電話も使われる▼ワルにも上があるもので、スーパーで買った調味料を「アイス」と偽り、9万円で売った人物が本紙に語っていた。「モノがモノだけに、警察に泣きつかれる心配はない」。百鬼夜行である▼警視庁は、薬物売買を助けた疑いで「2ちゃん」の関係先を捜索したが、管理の実態は定かでない。何でもありがネット文化とはいえ、怪情報の野放し、垂れ流しには自ら策を講じるしかない。「板」を掲げ続けるためにも、「やってません」では済まない宿題である


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2012年5月11日 (金)

2012.5.11

5月11日の作品

<作品>

神奈川県相模原市で、ペットのセキセイインコが逃げた。警察に保護された「ピーコ」はしゃべり始める。「サガミハラシミドリク……」と番地まで。万が一に備えて、飼い主の女性が住所その他を教え込んでいた▼何にせよ「再会」のストーリーには心が躍る。その感動は、募る思いと、両者を隔てた時空の掛け算。諦めていたなら歓喜はひとしおだろう、たとえモノでも▼北米大陸の太平洋側に、日本発の財物が流れ着いている。津波がさらい、偏西風が運んだあれこれは、粉々にされた「日常のかけら」である。まずは漁船、ボール、コンテナ入りの米国製高級オートバイ。秋には家屋の木材が加わり、来年2月までに4万トンに及ぶとの予測もある▼インコのように語れぬモノたちに代わって、発見者が手を尽くし、持ち主が次々と判明している。オートバイの主は家と身内3人を失っていた。さびた愛車は、抱きしめたい記憶と一体に違いない▼例のインコは2年前の母の日、息子さんから贈られた鳥だという。「漂着ごみ」と総称される品々にも、所有者との密(ひそ)やかな過去があろう。実際、ボールの手がかりは寄せ書きだった。波間で四季を越え、再び人前に現れたこと自体が、何かのメッセージに思えてくる▼不明者なお3千人。再会はかなわぬにしても、愛する人が愛したもの、生きた証しを求める関係者は多い。あの午後、ふるさとの海岸線から流れ出た記憶を取り戻すべく、しばらくは対岸からの報に耳を澄ましたい


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2012年5月 8日 (火)

2012.5.8

2012年5月8日の作品

<作品>

雨音の変調に振り向くと、ベランダで雹(ひょう)が踊っていた。白い粒の吹きだまりをすくい、はるか上空の寒気を想像する。しかし両手に山盛りの氷は、猛威の端で起きた異変にすぎなかった▼大型連休の最終日、関東地方を異常気象が見舞った。茨城県つくば市や栃木県真岡(もおか)市で竜巻が発生、1人が亡くなり、50人超が重軽傷を負った。建物の損壊は計1500棟を超す。最大級の竜巻被害である▼関東ではその時、湿気を含んだ南の暖気が低空に流れ込んでいた。上空との温度差は上昇気流を生み、巨大な積乱雲となる。その底から雹が降り、雷がとどろき、竜巻が起こる。神出鬼没の巨竜は悪意を宿したように、家財を巻き上げ、駆け抜けた▼世界的には米国の真ん中あたり、オクラホマ、カンザス、ミズーリ州などが「竜巻銀座」として知られる。逃げ込むための地下室を備えた住宅も多いそうだ。だが面積あたりの発生数では、関東平野も大して違わないらしい▼800年前に書かれた「方丈記」に、春の京を襲った「辻風」の記録が残る。〈三四町を吹きまくる間に、こもれる家ども、大きなるも小さきも一つとして破れざるはなし〉。地震や津波と同様、竜巻は昔から人の都合にお構いなく暴れてきた。文明が巡り合わせ、被害が刻まれる▼連休中、中高年登山者の悲劇も相次いだ。季節が移ろうこの時期、天の気まぐれに山も里もない。ひとたび牙をむいた自然の前で、悔しいけれど、人は飛べず泳げずの、弱き生き物に返る。

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2012年5月 3日 (木)

2012.5.3

2012年5月3日の作品


<作品>

小欄には多くのご意見をいただく。不完全な人間が限りある時間と紙幅で書く話だけに、どんなご指摘もありがたい。匿名の声ほど言葉は荒いが、いかに一方的でも、言論による訴えは歓迎だ▼朝日新聞阪神支局が散弾銃で襲われ、記者2人が問答無用で殺傷されて25年になる。脅迫文に「われわれは本気である。すべての朝日社員に死刑を言いわたす」とあった。いきなり戦場に引き出された思いで、負けられぬと誓ったものだ▼同世代の小尻知博記者(享年29)とは家族の年齢もほぼ重なる。父上は昨夏、83歳で旅立った。妻裕子さん(52)はピアノ教師を続け、娘の美樹さん(27)はテレビ局で働く。かたや目出し帽の男は生死も不明、数ある未解決事件の中でも見たい顔の一つだ▼一連の襲撃で彼らが目の敵にしたのは、本紙の論調だった。この国の風土や文化を愛し、歴史のほとんどを誇り、日本語を相棒とする新聞が「反日」のはずもないのだが、ともあれ言論へのテロである▼この四半世紀、インターネットの登場で、表現の自由をめぐる環境は一変した。65歳の憲法21条に守られ、自由を謳歌(おうか)するネット世界。そこで言論テロといえば、大手メディアによる言論「圧殺」も指すらしい。新聞やテレビはすっかり敵役だ▼大手だろうが個人だろうが、異論を許さぬ言説は何も生まない。社会を貧しくする、言葉の浪費である。誰もが発信できる言論空間を守り育てるためにも、形を変えて横行する「覆面の暴力」に用心したい。


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2012年5月 2日 (水)

2012.5.2

2012年5月2日の作品


<作品>

街宣車がずらりと並ぶ駐車場を抜けると、一転して森厳の領域だった。参道の杉並木の奥にはイロハモミジの若葉がきらめいている。先の「昭和の日」、東京都八王子市の武蔵陵墓地を訪れた▼広い緑地に、昭和天皇と香淳皇后、大正天皇と貞明皇后の四つの陵(みささぎ)。それぞれに鳥居を配し、巨大なお椀(わん)を伏せたような上円下方墳が100メートルほどの間隔で並ぶ。江戸時代からの伝統にのっとり、いずれも土葬である▼天皇、皇后両陛下は、大がかりな土葬より、一般と同じ火葬をお望みだという。お二人の合葬も視野に、陵も葬儀も簡素に、とのお考えだ。即位時から「象徴」だった初の天皇らしく、お別れの様式も転換点になるかもしれない▼宮内庁の羽毛田長官が明かしたご意向は、「生前の遺言」といえる。お墓の用地に限りがあるうえ、国の台所が厳しい折、国民に負担をかけまいとの配慮らしい。歴代では41人の天皇が火葬され、夫妻の合葬も例がある▼「テニスコートの恋」に始まり、民間初の皇太子妃、同居での子育てと、新時代の皇室を体現してきたご夫妻だ。「薄葬」の思いは時宜にかなうし、仲むつまじいお二人には合葬がふさわしい▼世間一般に近い感覚に、改めて親しみを覚える。むろん、心臓手術を乗り越え、英国訪問を心待ちにされる陛下に、送りの話は少々早い。周囲が持ち出せないからこそ、自ら切り出されたのだろう。諸事万端への気遣いを知るほどに、その日が少しでも遅かれと願わずにはいられない


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