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2012年7月

2012年7月31日 (火)

2012.7.31

7月31日の作品

<作品>

九州地方に爪痕(つめあと)を残して、暴れ梅雨は明けた。豪雨への警戒から一転の猛暑。ここは蒲焼(かばや)きでスタミナを――と募る食い気が高値に泣いた7月の言葉から▼甲子園行きをかけて高校球児らが躍動した。東京、実践学園監督の朝井剛(つよし)さんは79歳、炎天下に孫のような選手を率いた。「試合の一つ一つのエラーなんか将来に全然関係ない。長生きしてみたらわかる。だからミスを恐れず、楽しみながらやれ」▼大阪の象徴、通天閣が初代の完成から100年に。俳優の赤井英和さん(52)が今の2代目を「足の短い、ずんぐりむっくりな形をしているけど、全国で唯一、地元にしっかりと足を踏ん張った塔やと思います。帰ってきたら『ただいま』と言いたくなる」。その人気は衰えを知らない▼京都の西陣織職人、藤田恵子さん(26)が祇園祭の大船鉾(おおふねほこ)の御神体の衣装を織り上げた。精魂込めて大役を果たし、「どんなすごい技も先人の誰かがやってきたこと。できないはずはないと自分に言い聞かせた。負けず嫌いなんです」▼物理学者の小沼通二(こぬま・みちじ)さん(81)が言う。「戦争や核兵器はなくならないと言う人がいる。でも考えてみて下さい。日本は戦国時代や江戸末期、国内で戦争をしていましたね。いま国内で戦争が起きる可能性があると思う人はおよそいないでしょう。地球上だって同じです」▼朝日俳壇に河村勁(つよし)さんの〈脱原発の人犇(ひし)めきて蓮開く〉。どんな未来を選ぶのか。変えられるものを変えてゆく賢さを、人は持っているはずだ


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2012年7月30日 (月)

2012.7.30

7月30日の作品

<作品>

歴史の節目の中で明瞭なのが改元だ。100年前のきょう、明治天皇の崩御を受けて大正天皇が即位した。大正は14年ほどだが、社会運動が花開き、本格的な政党内閣ができた時代として意義深い▼改元の年は、東京市電のストライキで明けた。死の床の石川啄木が所感を記している。「国民が団結すれば勝つということ、多数は力なりということを知ってくるのは、オオルド・ニッポンの眼(め)からは、無論危険極まることと見えるに違いない」▼軍需工場や鉱山でも労働争議が起き、都市の商工業者は悪税廃止を求めた。富山から広まった米騒動や、普通選挙の要求。行動する国民に、藩閥政治に代表される「古い日本」は揺らいだ。ただデモクラシーとは名ばかりで、そのツケは次の昭和に回る▼昨夕、都心に「原発とめろ」「福島かえせ」が再びこだまし、デモ参加者は国会前に押し寄せた。日の丸を掲げてデモを批判する一群もいたが、割って入る警視庁の警備は見たところ穏当だった。喧噪(けんそう)の中で思ったのは、言論と表現の自由を命がけで根づかせた先達のことだ▼民主主義の成熟ぶりは、街頭行動の「賢さ」と、権力側の「こらえ性」が示す。中国では、暴徒化した群衆が手荒く鎮圧され、取材していた本紙上海支局長が多数の警官に暴行された。彼は、強権の闇に切り込む記事をいくつも書いている▼一党独裁の下で13億人が暮らす異形が、末永く続くとは思えない。今はただ、歴史の節目が早く、静かに訪れることを祈る。


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2012年7月27日 (金)

2012.7.27

7月27日の作品


<作品>

没して8年になる詩人の石垣りんさんは、高等小学校を出て銀行に入った。一家を支えて働きながら詩を書いていた。「月給袋」という詩は、こんな書き出しだ▼〈縦二十糎(センチ)/横十四糎/茶褐色の封筒は月に一回、給料日に受け取る。/一月(ひとつき)の労働を秤(はかり)にかけた、その重みに見合う厚味(あつみ)で/ぐっと私の生活に均衡をあたえる/分銅(ふんどう)のような何枚かの紙幣と硬貨……〉。報酬とは、注ぎ込んだ時間と労力の価値を表す「分銅」に他ならない▼ならば、この分銅はあまりに軽い。全国平均で737円という最低賃金(時給)である。まじめに働いても生活保護水準を下回ることもある。これでは意欲もなえよう。人というものを買い叩(たた)きすぎていないか▼最低賃金は都道府県ごとに定められ、毎年夏に厚労省の審議会で目安を決める。それが平均でたった7円の引き上げにとどまった。1日8時間で56円の増では、雀(すずめ)の涙にもならない▼貧困問題に詳しい湯浅誠さんに聞くと、そもそも最低賃金は家計を助けるパートやアルバイトを想定していた。しかし時代は変わり、これで生計を立てている人は少なくない。いわば「小遣いの基準を賃金にあてているようなもの」だという▼企業が悪い、と叫ぶつもりはない。だが資源に恵まれない日本の最大の資源は、額に汗する「人」ではなかったか。千分の1秒の金融・証券取引で巨富を手にする仕組みの一方、大勢が「1時間7円」に泣く図はいびつだ。格差を縮める政治の意志は、どこにある。


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2012年7月19日 (木)

2012.7.19

7月19日の作品


<作品>

古(いにしえ)の神話を踏まえて、東日本大震災のあと詠んだそうだ。短歌界の重鎮、岡野弘彦さんの歌集から拝借する。〈したたりて青海原につらなれる この列島を守りたまへな〉。火山があり底知れぬ海溝が沿う列島で、幾度も繰り返されてきた受難を思いつつ、歌に表したという▼日本の自然は美しさと非情が相混じり、国土は数限りない地異に揺さぶられてきた。なのに恐れも、畏(おそ)れも無かったのか。原発をめぐる無責任が、また一つ明るみに出た。北陸電力志賀(しか)原発(石川県)の直下に活断層があるらしい▼専門家によれば「典型的な活断層」という。「よく審査を通ったなとあきれている」と聞けば、地元の人は怒りに震えよう。ごまかしか見て見ぬふりか、政・官・業のなれ合いの泥沼は、底知れず深い▼福井県で再稼働した関電大飯原発にある断層も、活断層の疑いがある。だいぶ前だが、九電の川内(せんだい)原発(鹿児島県)では地質調査のサンプルが差し替えられたと問題になった。隠されているものの膨大さが想像できる▼昭和30年代、渡英した原発調査団が、向こうの技術者たちに関東大震災の記録映像を見せた。「こんなことがあるのか」と誰もが驚いたという。プレートがぶつかり合い、活断層ひしめくその列島に、いま50基が林立する▼事があれば制御不能になるシステムを、人知の及ばぬ地異にさらす。これは一種のギャンブルだろう。負けて目覚めぬ者は身を滅ぼす。福島に懲りず国土を賭け金にするのは、愚行である。

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いったいどうしたの?

知らないうちに、朝日新聞のWEBサイトに掲載されている天声人語が、前日分までしか見られなくなっている。

これまでは過去1週間分は見ることができたので、この感想文もまとめて書くことがあったのに、これではタイムリーに読まなければ書けなくなってしまう。
いったいどうしたんだろう。

「筆写に最適」とか自画自賛しておきながら、「読みたきゃちゃんと買って読め!」というつもりだろうか。

そうまでしなければならないほど、定期購読者が激減しているってこと?

だったら、それはそれでいいのだけど・・・・!?

2012年7月17日 (火)

2012.7.17

7月17日の作品

<作品>

67年前のきのう7月16日、米国ニューメキシコ州では太陽が2度昇った、と言われる。この日の夜明け前、アラモゴードの荒野で大音響とともに巨大な火の玉が炸裂(さくれつ)した。人類初の原爆実験である▼長崎で被爆した作家の林京子さんは1999年にこの爆心地を訪ねた。後に感慨を本紙に語っている。「熱く、草のはぜる音さえ聞こえない静かな荒野でした。それまで私たちが核の最初の被害者だと思っていましたが、大地は傷ついたまま、黙って耐えていた」。重い言葉が福島を連想させる▼原発事故で傷ついた故郷の地を離れて、今も万の人が戻れない。その苦境を置き去りにするように、政府は再稼働へ舵(かじ)を切った。抗議を込めて、きのう7月16日、東京であった「さようなら原発」の集会は大勢の参加者が広い代々木公園を埋めた▼炎暑にめげずご高齢の姿が目立ったのは、孫たちの未来を案じてだろうか。「故郷を壊すな!」「子どもを守ろう」。プラカードや幟旗(のぼりばた)が、人々が全国から集まったことを教えている▼呼びかけた一人、音楽家の坂本龍一さんが、壇上から「福島のあと沈黙していることは野蛮だ」と語ると大きな拍手が湧いた。質、量ともに巨大な、脱原発への「志」の結集となった▼「実際に生きている人間の直感の方が、科学的知を超えて物事の本質に迫る瞬間がある」という反原発の科学者、故高木仁三郎さんの言葉を思い出す。権威は必ずしも賢ならず。生活者の肌感覚を蔑(さげす)まない政治が、今こそほしい

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2012年7月11日 (水)

2012.7.11

7月11日の作品

<作品>

以前、いじめ問題で取材した小学校の先生は、担任するクラスを「海」にたとえた。教壇から毎日見ていると何でも分かったような気になってしまう。でも見えているのは何十分の一にすぎない。子どもの世界という広くて深い海の中で、何が起きているのか。把握するのは本当に難しい、と▼この先生は深刻ないじめに気づかずにいた。だが気づいたあとが立派だった。いじめとは何か、なぜいけないかを、時間をかけてクラスに浸透させた。いじめは許しませんという真っすぐな意思が、子どもの心に響いていった▼ひるがえって大津市の場合である。中2男子の自殺をめぐり、教師はいじめを知っていたが「見て見ぬふりをしていた」と、複数の生徒がアンケートで答えていた▼片や市教委は「担任は、廊下でプロレスの技をかけられたりするのを目撃したが、いじめの認識はなかった」と言う。「自殺の練習をさせられていた」など聞き捨てにできない情報も複数あったが、早々と調査を打ち切った。輪郭と真相はぼやけ、「事なかれ主義」といった批判も飛ぶ▼少し救われるのは、全校生徒へのアンケートのいくつかの答えだ。「自分も見て見ぬふりをしていて、これも立派ないじめと気づいたときは、本当に申し訳なかった」。悔いはみんなの糧となろう▼〈昭和にもイジメはあった同窓会の返信葉書に欠席と記す〉の一首を、何日か前の本紙栃木版で見た。誰ひとり幸せにしない行為である。許さぬ意思を分かち持ちたい


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2012年7月 7日 (土)

2012.7.7

7月7日の作品

<作品>

ペルーの世界遺産「ナスカの地上絵」は、遊覧飛行で眺めるほかない。人の目の高さからは浅い溝が走るだけで、何を描いたものか分からないそうだ。世には大きすぎて見えないものがある▼万物に質量を授けるヒッグス粒子が見つかったと聞いて、ついにやったかと感涙にむせぶ人は珍しい。「世紀の大発見」はえてして我らの理解を超え、その大きさを知るのは後世になる▼英国のヒッグス博士(83)が半世紀前に予言したこの粒子。宇宙誕生の瞬間、好きに飛び回る他の素粒子に水あめのように絡み、全体を落ち着かせたとされる。その動きにくさこそが質量だ。鈍重になった素粒子たちは寄り集まり、水素などの原子、星や生命を生んでいく▼世界の物理学者は、欧州の巨大加速器でヒッグス粒子を探してきた。天地創造に迫る旅である。彼らは「99.9999%以上の確率」でそれらしき粒子を見つけたという。あると予測された17の素粒子は一通り確認されたことになる▼ただ、果てしなき時空を究める上で、この発見は始まりにすぎないらしい。地上絵でいえば、溝の何本かは見つけたが、空から全体像を眺めた者がいない段階か。宇宙の大方は未知の「暗黒」が占めるとされる。探究の旅に終わりはない▼ビッグバンから137億年、まさか「作品」の一つが正体に肉薄してくるとは、「神の粒子」もびっくりだろう。こよい七夕の銀河を思い浮かべて、人類もやるもんだと杯を重ねるのもいい。つまみは粒(つぶ)ウニか何かで。


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2012年7月 6日 (金)

2012.7.6

7月6日の作品

<作品>

水が貴重な国際宇宙ステーションでは、3年前から尿を飲料水に再生している。顔をしかめては「地上のぜいたく」と笑われよう。その水で乾杯した若田光一さんは「結構おいしい」と語ったものだ▼海水や雨水より抵抗はあろうが、科学的には何から作っても水は水である。では、何から作っても電気は電気かというと、そんな時代ではない。原子力は、いよいよの時に仕方なく頼る電源になった▼きのうの朝、福井県の大飯原発3号機が発電を再開した。こどもの日の夜に北海道の泊3号機が止まって以来、久々に原子炉がこしらえた電気が送電網を流れている。原発に頼らぬ日本は60日と8時間で幕を下ろした▼世の中はその間、とにもかくにも原発なしで回った。夏の試練に挑まなかったのは、万一の放射能より電力不足を政府が恐れたためだ。冷房の風、照明の色に違いはない。ともすればまた、原発頼みが社会の習い性になりかねない▼官邸を囲んだ怒りを聞くまでもなく、民意は脱原発にあろう。片や株主総会を見る限り、電力会社の意識は「動かすほどもうかる電源」のままらしい。地元経済の原発依存も変わらない。何ごともなかったように再稼働が続いては、福島の教訓が泣く▼あすは二十四節気の小暑(しょうしょ)、節電の正念場が近い。宇宙と違い、選択肢がいくつかある地上で暮らす私たちである。せめて、原発を動かす必要はなかったと、数字で示したい。誰も顔をしかめない「安らぐ電気」だけで賄える国を目ざして


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2012年7月 5日 (木)

2012.7.5

7月5日の作品

<作品>

「ばからしい」と書きかけて「空しい」にしたことがある。書き写しを思ってのことだ。流し読みならまだしも、「ばか」と書いてもらうのは心苦しい。多くの方に筆写していただくお陰で、生来がさつな言葉遣いがいくらかマシになった気がする▼毎度の手前みそながら、昨年春に売り出された「天声人語書き写しノート」が累計100万冊に達したという。うれしい前に恐れ多い。人様に写させるレベルかと、自問の日々である▼北九州市立高校では、現代社会などの勉強に使っているそうだ。新聞を読む習慣がなく、小欄とは初対面の生徒さんも多い。慣れないコラム文の書き写しは苦痛だろうが、今春の卒業生は銘々3冊を「完写」してくれた▼集中力がついた、縦書きの字がきれいになった、社会への関心が高まったと、うれしい感想も届いた。「毎日よく続きますね」という問いは、皆さんにそのままお返ししよう。書くのも写すのも、一つ仕上げたら一つ腕が上がる▼よくある質問に「黒い逆三角形は何?」がある。段落を示す記号である。誰が決めたか逆三角が小欄の習いだが、ただの印だからたまにはルール違反を許してもらおう。ご愛読、ご愛写への深謝を込めて(ハートマーク)▼冒頭の空白を含め603字。短いとはいえ、写される文の大先輩、般若心経(はんにゃしんぎょう)の倍はある。写経なみの御利益は請け負えないが、末永く続けていただけば某(なにがし)かの貢献、例えるなら小さなハートマークほどの「お返し」はできるかと思う。ご精進ください


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2012年7月 3日 (火)

2012.7.3

7月3日の作品

<作品>

子どもの頃、お祭りの露店で「カラーひよこ」を買ったことがある。面白うてやがて悲しきというか、愛玩用の幼鳥は毒々しい赤や緑に着色され、思い返せば哀れな姿だった。〈染められてなお売れ残るひよこたち〉古俣麻子▼チルドレン、ガールズと十把一絡(じっぱひとから)げに呼ばれる国会議員の行く末を思うたび、この川柳が胸をよぎる。実力者の色に染まってバッジをつけたはいいが、「数こそ力」の駒に使われ、先々の保証はない▼子飼いのひよこたちを引き連れて、民主党の小沢元代表が離党する。衆参50人ほどで新党だという。離党届を小沢氏に預けていた議員は、身の処し方までを、有権者ではなく親分に委ねたことになる▼離党者に多い当選1回組は、世論が雪崩を打った「政権交代バブル」で永田町に職を得た。失礼ながら大半は、バブル崩壊の民主党では再選がおぼつかない。ここは選挙上手に身を任せ、反増税、なんなら脱原発も掲げて生き残る策だろう▼朝日歌壇に、先の句と対照をなす一首がある。〈自らの色で濃くなる苺(いちご)ジャム私は私であり続けよう〉大堂洋子。煮詰まるほどに紅(くれない)を深めるジャムには、他力で飾らぬ無着色の潔さがある。政治家もかくありたい▼激動の世で問われるのは「自らの色」だ。着色に甘んじ、独り立ちしないチルドレンは消えてゆく。ひよこじゃないとお怒(いか)りの皆様、集団離党の次のステップは自分で決めませんか。余計な色を落として出直すもよし、国政の経験を生かして転職するもよし

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