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2012年9月

2012年9月30日 (日)

2012.9.30

9月30日の作品

<作品>

無人島のために戦争なんて、とつぶやける国がいい。隣国の無法に呆(あき)れ、国境の荒波にもまれる海保の精鋭たちに低頭しつつ、小欄、間違っても煽(あお)る側には回るまいと思う。立ち止まらせる9月の言葉から▼竹島は日本領と発言したら、韓国紙に極右作家と書かれた岩井志麻子さん(47)。韓国人の夫は愛犬を独島(トクト)と呼び、妻は竹島と呼ぶ。「痴話げんかはするけど本気ではやらない。夫婦関係も隣国との関係も、そういう約束の上で成立している」▼「日本だけが素晴らしいという考えは、思い上がった自国愛にすぎない。ただの排外主義。愛国とは最も遠いものです」。新右翼の一水会顧問、鈴木邦男さん(69)だ▼「福島で失われようとしている国力の問題は、その価値において領土問題の比ではない」と作家の池澤夏樹さん。「領土は隣国との意地のゲームだが、福島は現実。住む土地を追われた人々がいる」▼節電で猛暑を乗り切った大阪府豊中市の上田照子さん(70)が語る。「今ある電気で間に合う生活にしていく。夏も冬も、電気を大切にする意識はもう変わらないと思う」▼パラリンピックの旗手を務めた全盲の木村敬一さん(22)が、100メートル平泳ぎで銀メダルに輝いた。「世界にもっと飛び出したい。行った国や知り合った人が多いほど、僕の地球は広がる」▼国民感情を煽る言動、村上春樹さん言うところの「安酒の酔い」に溺れず、ここは心に一拍おいて国柄を示したい。台風が恨めしいが、今宵(こよい)は中秋の名月である。


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2012年9月28日 (金)

2012.9.28

9月28日の作品

<作品>

 「昭和二十二年の井伏さん」という短い一文が井上ひさしさんにある。作家の井伏鱒二がその年に井上さんの本家筋の造り酒屋にやってきた。のぞき見ると「丸顔の人がにこにこしながら盃(さかずき)を口に運んでいた」そうだ▼お酒を傍らに、土地の文学青年らが持ち込んだ原稿にすこぶる的確な評を与えて、宵の口に別の町へ発ったという。だが、その井伏さんは真っ赤な偽者(にせもの)だった。白いご飯とお酒を目当てに「偉い先生」になりすまし、田舎に出没する者が当時は珍しくなかったらしい▼どこか憎めない「にせ文士」と違い、警視庁などが逮捕したニセ医師(43)は深刻だ。東京や長野、神奈川の医療機関で1万人以上がこの人物の健康診断を受けたと見られる。命にかかわる見落としがなかったか心配になる▼同姓の医師になりすました男は、独学で知識をかじったそうだ。長野では企業に出向く形で健診をこなし、問診や触診もした。明るくて好評だったというから皮肉である▼なりすましといえば、イラストレーターの南伸坊さんは有名人に顔を似せるのを得意技(わざ)にする。その写真を集めた『本人伝説』(文芸春秋)の宣伝文句は言う。「自分ひとりが本人と思い込んでいる虚をついて、著者が本人になりすます」▼伸坊さんなら光栄だが、どこでもう一人の自分が大手を振っているか、悪事を働いているか分からない。オウム逃亡犯もそうだった。その危うさをネットが増幅する。有名無名を問わず、虚をつかれやすい時代になった。


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2012年9月27日 (木)

2012.9.27

9月27日の作品

<作品>

3年前の秋、自民党は落ち武者集団を見るようだった。政権を明け渡し、「自民党という名が国民に嫌われている」と党名を変える動きもあった。「和魂党」やら「自由新党」やら、まじめに考えていたらしい▼支援団体は離れ、陳情は減り、食い慣れぬ冷や飯のせいか無気力と自嘲さえ漂った。その斜陽から、新総裁が次期首相と目される党勢の復活である。「ある者の愚行は、他の者の財産である」と古人は言ったが、民主党の重ねる愚行(拙政)で、自民は財産(支持)を積み直した▼とはいえ総裁に安倍晋三元首相が返り咲いたのは、どこか「なつメロ」を聴く思いがする。セピアがかった旋律だ。当初は劣勢と見られたが、尖閣諸島や竹島から吹くナショナリズムの風に、うまく乗ったようである▼1回目の投票で2位だった候補が決選投票で逆転したのは、1956年の石橋湛山以来になる。その決選で敗れたのが安倍氏の祖父の岸信介だったのは因縁めく。「もはや戦後ではない」と経済白書がうたった年のことだ▼以降の自民党は、国民に潜在する現状維持意識に根を張って長期政権を保ってきた。人心を逸(そ)らさぬ程度に首相交代を繰り返してきたが、3年前に賞味期限が切れた▼思えば自民は、原発を推し進め、安全神話を作り上げ、尖閣や竹島では無為を続け、国の借金を膨らませてきた。景気よく民主党を罵倒するだけで済まないのは、よくお分かりだと思う。たまさかの上げ潮に浮かれず、責任を省みてほしい

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2012年9月26日 (水)

2012.9.26

9月26日の作品

<作品>

たとえば結婚式。スピーチで年配のおじさんが「人生で大切な10の心構え」などと話しだすと3分では終わらない。この手の話は長びくのが相場。終わるとやれやれで、一息つきながら拍手と相成る▼退屈な冗舌もやりきれない。英国の作家モームの短編にそんな女性が出てくる。周りの辟易(へきえき)には気がつかない。「平凡きわまることを、釘を壁にハンマーで打ち込むように、他人の耳の中へと押し込んだ」(行方〈なめかた〉昭夫訳)。知り合いの顔が浮かんだ方(かた)も、おいでだろうか▼あれこれ思いながら、先日の記事を読んだ。人を笑わせ、考えさせる科学研究などに贈られる恒例の「イグ・ノーベル賞」を日本人の研究者2人が受賞した。発明したのはおしゃべりを黙らせる装置。一台ほしい、という声があちこちから聞こえそうだ▼話している人に向けて、0.2秒ほど遅れてその声を送り返す。すると混乱して話し続けられなくなるらしい。長話を黙らせたいという「人類の根源的問題」に応えようとした。そんな評価もあるそうで、ユーモアの味わいがいい▼思えば、目は閉じたいときにすぐ閉じられる。しかし耳は同じようには閉じられない。だから携帯電話の話し声やら、聞きたくないのに聞こえてしまう▼一方で、退屈な講演などを「最高の子守歌」と言う人もいる。耳が閉じられないゆえの余得だろう。うつらうつらの船漕(こ)ぎは、なかなか幸せな一時(ひととき)でもある。ユニークな賞に誘われて、秋の一日、連想があちらこちらへ広がった。


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2012年9月25日 (火)

2012.9.25

9月25日の作品

<作品>

40年前のきょう、当時の田中角栄首相は北京へ発った。毛沢東主席、周恩来首相と会談をこなし、中国との国交関係を回復したのは9月29日のことだ。歴史的な訪中の前日、田中は東京西郊にある高碕(たかさき)達之助の墓前に参じている▼日中友好の井戸を掘った日本人として、真っ先に名前のあがる人物だ。実業家にして政治家で、周恩来との間に信頼と友情を育み、国交正常化への道をつけた。いま泉下(せんか)で、角突き合わせる両国を何と見ていよう▼北京で開催予定だった国交40年の記念式典が事実上中止になった。節目節目に開かれてきたが、取りやめは初めてだ。他の交流事業や催しも相次いで中止、延期になっている。先人が掘り、後続が深めた井戸の水位が、みるみる下がりつつある▼本紙が両国で行った世論調査で、日本の9割、中国の8割が「日中はうまくいっていない」と答えた。中国での調査は尖閣諸島の国有化前だから、今はさらに悪化していよう。どちらの政府も弱腰批判が痛手になりかねない▼きょうは中国の文豪、魯迅(ろじん)が生まれた日でもある。魯迅といえば「もともと地上には道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ」の一節が名高い。日中の井戸も、戦後の荒野についた道のようなものだ。営々と時をかけて太くなってきた▼すぐ指をポキポキ鳴らしたがる大国は厄介だが、平和国家は「柳に雪折れなし」の外交で、譲らず、理を説いてほしい。勇ましい声に引きずられると、井戸は涸(か)れて火柱が立つ

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2012年9月23日 (日)

2012.9.23

9月23日の作品

<作品>

秋分の昼下がり、久しぶりにいわし雲を見た。うろこ雲とも呼ばれる巻積雲(けんせきうん)の正体は、高い空に薄く広がる氷の結晶だという。知れば涼しい豆知識である▼子規は「春雲は綿の如(ごと)く、夏雲は岩の如く、秋雲は砂の如く、冬雲は鉛の如く」と、四季の空を例え分けた。そそり立つ入道雲の巨岩が崩れ、白い砂石を散らした空が列島を覆う季節。熱帯夜から解放され、うだる日々を過去形で語れる喜びを思う▼先ごろの朝日川柳が嘆いた通り、まるで「春夏夏冬」の残暑だった。8月下旬から9月中旬、北日本の平均気温は統計史上の最高を記録したという。遅れがちな秋とは別に、10年の単位でみても温暖化は確実に進んでいる▼北極海を覆う氷が、過去最小になったそうだ。観測衛星「しずく」によると、今月16日の時点で349万平方キロ。9月は氷が小さくなる時期だが、1980年代には平均700万平方キロあったから半減である。わが国土の10倍が水と消えた計算だ▼陸地に恵まれ、人類の9割が暮らす北半球では、生産と消費が大量の二酸化炭素を吐く。温室効果で北極の氷は薄くなり、わずかな環境の揺らぎで解けてしまう。遠からず、極点を航行できるようになるかもしれない。悲しい新航路である▼午後の空に舞ういわしの群れは見る間に姿を変えていく。遅れても回る四季の繊細な歯車と、それを乗せてきしむ温暖化の巨大な歯車。小さい方が動いているうちに、大きいのを止める策を講じたい。むろん原発に頼らずに。


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2012年9月21日 (金)

2012.9.21

9月21日の作品

<作品>

東京の多摩動物公園でユキヒョウ(雪豹)の母が死んだという記事に、いささか感じるものがあった。3頭の子を去年産んで育てていた。エサの時間だけは、一緒にしておくとすべて子に与えて食べないため、部屋を分けていたそうだ▼その日も子を別の部屋に移した。油圧扉を閉めているときに子が鳴きだし、母豹は飛び込もうとして扉に挟まれたという。〈物いはぬ四方(よも)の獣(けだもの)すらだにもあはれなるかな親の子を思ふ〉。源実朝の一首が胸に浮かんだのは、人間の感傷だろうか▼動物にも、親から愛情を受ける大切な時期がある。子猫や子犬がかわいいといって、生後すぐに売り買いするのは酷だと、動物愛護法が改正された。まず生後45日までは親から引き離すのを禁じた▼離すのが早すぎると、成長してから、吠(ほ)える、噛(か)むなどの問題行動を起こしやすいという。その結果飼い主に捨てられ、殺処分につながる。人間の欲と身勝手に翻弄(ほんろう)される命は少なくない▼ひどい話もある。ある本によれば、飼い犬を処分するよう自治体の施設に連れてきて、帰りに子犬を「譲ってくれ」と言った男がいたそうだ。犬、猫の処分は減ってはきたが、それでも年に約20万匹にのぼる▼コンパニオンアニマルという言葉はうるわしい。ペットとして飼うイメージを超えた、伴侶としての動物を言う。愛情を注いで、癒やされる。その情けをかりそめに終わらせないのが人の道だろう。使い捨てではない命。きのうから動物愛護週間が始まっている


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2012年9月19日 (水)

2012.9.19

9月19日の作品

<作品>

親離れと子離れ、どちらがむずかしいのだろう。今年2月の本紙歌壇に一首があった。〈どれだけの覚悟で言ったことなのか君は知らない「好きにしなさい」〉今村こず枝。「なかなか怖い歌。一語に籠(こ)めた母親の覚悟」は選者の永田和宏さんの評だ▼事情は想像するしかないが、へその緒を再び切るような思いの一時(いっとき)が、母親にはあるのかも知れない。作家の森崎和江さんが「母性とは、抱く強さと同じ強さで放つもの」と書いていたのを思い出す。抱くことだけに一途(いちず)では駄目らしい▼とはいえ、昨今は親がかりの期間が延びるばかりのようだ。ベネッセ教育研究開発センターが大学生の保護者に聞いたら、4年生の親の約4割が就職活動を助けていた。ネットや雑誌で情報を集めるなど、父親より母親の方が熱心だという▼調査の結果、就活だけでなく大学受験も含めて「高学歴の母親が自分で情報を集め、子の進路決定に関わっている姿」が浮かび上がるそうだ。ありがたい親心か、自立を妨げる干渉かは、その母、その子によるだろう▼何年か前、アメリカから「ヘリコプター・ペアレント」という言葉が入ってきた。頭上を旋回するヘリのように子を見守り、すぐ降りてきては指示や助け舟を出す親、という揶揄(やゆ)だ。日本の大学生の親にも多いらしい▼履修登録についてくる、授業の欠席連絡を親がよこす――など珍しくもないと聞く。となれば「へその緒」つきの社会人も結構いるのだろう。叱り方ひとつにも注意がいる


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2012年9月18日 (火)

2012.9.18

9月18日の作品

<作品>

通り過ぎた台風になぞらえれば、きょうは中国で暴風に大潮の重なる日である。尖閣諸島をめぐって反日の嵐が渦巻いている。そこへもって、18日は満州事変の発端となった柳条湖事件から81年になる。それでなくても反日感情の高まる日だ▼加えて、東シナ海の休漁期間が一昨日明けた。台風一過の尖閣周辺へ、中国漁船が大挙繰り出す情報もある。中国当局は「漁民の生命と安全を守る」と強硬だ。海保の巡視船に漁船が体当たりした、2年前のような「英雄気取り」が心配される▼デモの参加者にしても、このさい暴れ回っても大丈夫なことは計算済みだろう。「愛国無罪」の錦の御旗(みはた)があるうえ、規制は手ぬるい。民衆の猛威を日本への圧力にする政府の思惑も、承知しているふうである▼テレビを見ると、尖閣諸島を地図で指せない参加者がいる。反日スローガンだけ覚えれば事は足りるらしい。それを政府もメディアも煽(あお)る。腹に据えかねる図だが、同じ土俵で日本人が熱くなってもいいことはない▼歴史問題もあって、日中関係はなかなか安定しない。小泉政権下でも凍りついた。その後、温家宝(ウェンチアパオ)首相の「氷を溶かす旅」の訪日などで関係は良くなった。それが国交回復40年の節目に、この間で最悪とされる睨(にら)み合いである▼むろん主権は譲れない。だが挑発せず、挑発に乗らず。あおらず、そして決然と。官も民も、平和国家の矜持(きょうじ)を堅持しつつ事を運びたい。諸外国の日本への支持を膨らますよう、考えていくときだ


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2012年9月11日 (火)

2012.9.11

9月11日の作品

<作品>

半世紀前の名曲「王将」は、勝負師の意地がはじける三番がいい。〈明日は東京に出て行くからは/なにがなんでも勝たねばならぬ……〉。そう歌われた将棋の阪田三吉や、落語の初代桂春団治ら、大阪から「天下取り」に挑んだ人物は多い▼さて、この人の立志伝は後にどう語られよう。大阪市長の橋下徹氏が、新党「日本維新の会」を率いて国政に臨む。〈……空に灯(ひ)がつく通天閣に/おれの闘志がまた燃える〉の心境かどうか、衆院選に大量の候補を立て、過半数を取りにいくという▼大阪を変えるために国政を変える。あべこべか遠回りに見える手法とは裏腹に、その素早さは類例を思いつかない。タレント弁護士が弁舌を武器に、たちまち政治の真ん中に肉薄したのだから▼大阪発祥の新聞で書く当方、東征の成否はとりわけ気にかかる。しかし、大きく広げた風呂敷は目が粗く、維新に値する人材、資金の備えも心もとない。留飲を下げるだけの一票は橋下氏と国のためになるまい▼氏への漠たる期待は、「東京の政治」への幻滅と食傷の裏返しだ。永田町の外から攻める人なら日本を前に進めてくれる、と。そんな異端の輝きに対抗するには、正統を任じる側も変革あるのみなのに、二大政党にその様子はない▼民主党の代表選は結局、野田首相の再選が濃厚らしい。片や「勝てば首相」とされる自民党総裁選は、現職が出馬を断念し、仁義なき跡目争いが見込まれる。昭和が匂うどころか、江戸幕府の末期を見るようだ。


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2012年9月 6日 (木)

2012.9.6

9月6日の作品

<作品>

暗殺者のことを英語でアサシンと言い、その元の意味は「ハシシ(大麻)を使う人」だとされる。武勇を見込んだ若者らの魂をハシシでとりこにし、暗殺に向かわせるペルシャの「山の老人」の話が、マルコ・ポーロの「東方見聞録」に出てくる▼シリアでも似たことがあるらしい。テレビ朝日系の「報道ステーション」で、政権側民兵という人物のインタビューを見た。もらった「麻薬の錠剤」を飲んで子どもや女性を虐殺していたという。気分は高揚し、罪の意識は消える、と▼反体制派に身柄を拘束されての発言というが、事実なら、人の姿をしつつ、麻薬によって人ではなくなった者の群れだ。この民兵組織が多くの市民の殺害にかかわっていることは国連も確認している▼死者はすでに2万5千人を超えるという。その1人にジャーナリストの山本美香さんもいる。弱い立場の人に目を向け続けた人だった。葬儀の会場に、全身を包帯で覆われた赤ちゃんの写真が飾られたと聞いて、まど・みちおさんの「ガーゼ」という詩が胸をよぎった▼〈ガーゼは 傷口によりそい/生命(いのち)を まもりぬく/まっ白く あかるい/花びらのような やさしさで/どんなに どす黒く重たい/武器たちの にくしみからも〉。山本さんはこの詩をご存じだったろうか▼人道上の悲劇から人々を「保護する責任」を、国連は果たそうとしない。安保理は気位ばかり高くてガーゼの役にも立たない。大国のエゴのために、今日も救えない命がある


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2012年9月 5日 (水)

2012.9.5

9月5日の作品

<作品>

むかし、伊勢神宮は諸国の信者に、厄除(やくよ)けのお札などを入れた小箱を配ったそうだ。これを「お祓(はら)い箱」といい、毎年古いものが捨てられ、新しいものに取り換えられた。転じて「お払い箱」の言葉が生まれたと、手元の辞典にある▼自民党トップの谷垣総裁の再選が危うくなり、「お払い箱」という報道がもっぱらだ。総選挙を控えて、もっと人受けのいい「顔」にすげ替えたいらしい。野(や)に3年の自民党を手堅く率いてきたご本人の胸中は、穏やかではあるまい▼急浮上の石原幹事長は、父親の慎太郎氏、叔父の故・裕次郎氏に連なるブランド力で売る。安倍元首相は大阪維新の会との近さで存在感を増す。国会は8日まで開会中だが開店休業。懸案そっちのけで、党の関心はすっかり総裁選に移っている▼民主党の代表選も相似たりだ。こちらも人気低迷の野田首相をお払い箱にしたい人々が、あれこれと動く。新たな「顔」も取り沙汰されるが、それよりしっかり政府の仕事を、と叱る国民は多かろう▼野田さんの肩を持つ義理はないけれど、伊勢のお祓い箱さながらに、毎年首相を使い捨てる政治は情けない。また1年で代わるなら日本はいよいよ軽くなる。それに増税の最高責任者が、次の選挙で信を問うべきだと思う▼解散風が吹きだすと、前も書いた「再選されることばかり考えていると、再選に値するのが難しくなる」の箴言(しんげん)が思い浮かぶ。筋を通す人、損得に堕する人――。政治家と政治屋の違いがあぶり出される。


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2012年9月 4日 (火)

2012.9.4

9月4日の作品

<作品>

青という色は若さや未熟を表す。「青い果実」と聞けば大人になる前の、思春期の少年少女を思い描く。先の本紙俳壇にこの句があった。〈青柿のような「中二」に遺書はなく〉。作者の鎌田進さんは大津市のいじめ事件で命を絶った少年を悼む▼俳人の宇多喜代子さんには〈青柿にこれからという日数(ひかず)かな〉がある。何年か前に詠まれたものだが、前途ある命が、これからという日数を絶たれた悲しみに、あらためて思いが至る▼大津市ではおとといまで、いじめや暴力で死に追いやられた少年少女15人の写真や、残されたメッセージを紹介する展示が開かれていた。暴力事件で息子を亡くした青木和代さんが、苦しむ子らに「生きてほしい」と伝えたくて企画した▼「やさしい心が一番大切だよ。だから、その心を持っていないあの子達の方が可哀相(かわいそう)なんだよ」(15歳女子)。「ある日は日の光となり、ある時は雨となって、あなた達(家族のこと)の心の中で生きています」(14歳男子)。一文字一文字が、いじめの罪深さを告発してやまない▼自分のことは針で刺されても痛いと騒ぐ。なのに他人には槍(やり)を突き刺して平気でいる。大なり小なり人が持つ性(さが)だろう。人の痛みに気づくには、気づかせるにはどうしたらいいのかと、心ある大勢が悩んでいる▼2学期が始まった。先生も生徒も、いじめについてもっと話し合ってほしいと思う。風通しよく話すことで、滅菌されるように消えるいじめもある。苦しむ子をゼロにしたい


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