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2013年6月

2013年6月28日 (金)

2013.06.28

6月28日の作品

<作品>

夏目漱石の「坊っちゃん」に出てくる教頭の赤シャツは、いやな男として描かれる。大学卒で、時々「帝国文学」という雑誌を学校へ持ってきてありがたそうに読んでいる。坊っちゃんは気に入らない▼「赤シャツの片仮名はみんなあの雑誌から出るんだそうだ。帝国文学も罪な雑誌だ」。赤シャツが並べた片仮名は人名だったが、坊っちゃんが今の世を見たらカタカナの氾濫(はんらん)に驚くだろうな――などと、本紙名古屋本社版などの記事を読んで思った▼岐阜県の男性(77)が、NHKのテレビ放送に外国語が多すぎると裁判を起こした。分かりづらくて精神的苦痛を受けたとして慰謝料141万円を求めた。コンテンツやコミュニティーデザインなどを例に挙げて、日本語を軽視するような姿勢は疑問だと訴えている▼訴訟への賛否はあっても、思いに共感する人は多かろう。NHKだけではない。新聞、雑誌、民放も、政府も企業もカタカナ語だらけ。こっそり申せば小欄も、時おり読者のお叱りを頂戴(ちょうだい)する▼明治の初め、知識人はなだれ込む外国語と格闘して、片っ端から日本語の服を着せた。哲学、個人、理性をはじめ喜劇、悲劇、社会、意識……。一語一語が国民の財産になってきた▼「外来語、カタカナ語を乱用するのは怠けである」と英文学者の外山滋比古さんがマスコミに苦言を述べていたのを思い出す。赤シャツよろしく気取って使うなどもってのほか。外来語に虫食いにされぬ美しい日本語のために、省みることが多い


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2013年6月12日 (水)

2013.06.12

<6月12日の作品>

安倍首相夫人、昭恵さんの発言が話題になっている。「私は家庭内野党」だといい、「原発反対」の考えを改めて語った。その真意が取り沙汰されてもいるが、毎週の「官邸前抗議」ならぬ家庭内の異論に、首相は何と答えるだろう▼ギャグマンガ家、赤塚不二夫の母も家庭内野党だったらしい。戦争中に憲兵をしていた父と異なり、母は戦後ずっと社会党ファンだった。選挙のときはいつもけんかになり、母は「こればかりは夫婦といえどもちがう」と譲らなかったという▼一家は旧満州からの引き揚げ者だ。終戦で父はソ連軍に連行され、母が幼子の手を引いて帰国した。働きながらの子育ての辛苦が「革新的な意識」につながったのでは、と息子は推測している。遅れて戻った父は憲兵時代の思想が抜けなかった▼赤塚と憲法学者の永井憲一さんとの共著『「日本国憲法」なのだ!』(草土〈そうど〉文化)で知った。30年前の本だが、版元の若い社員が「この本はわかりやすい。いま憲法が学校であまり教えられていない」と言うので、急いで改訂新版を出したという。小学校高学年なら十分読める内容だ▼「日本はもう戦争はいたさないのだ!」とバカボンのパパが宣言する。「国の政治は国民が信用してまかせた議員がするニャロメ!」とニャロメが言う。赤塚マンガの主役、脇役が総動員で憲法を語る▼永久不可侵のはずの基本的人権も、「いつも努力しないとなくなってしまうかも」。アッコちゃんが鳴らす警鐘は今も響いている

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2013年6月 8日 (土)

2013.06.08

<6月8日の作品>

「爆発」というキーワードにいささか驚かされた。安倍首相の5日の成長戦略第3弾スピーチである。岡本太郎の懐かしい叫び、「芸術は爆発だ!」を引用し、芸術論を成長論につなげた▼首相の言葉は高ぶる。「一人ひとりが、それぞれの持ち場で、全身全霊をぶつける」「今こそ、日本人も、日本企業も、あらん限りの力で『爆発』すべき時です」。景気は気から、とよくいう。首相が人心を鼓舞しようとしているのはわかる▼問題は、爆発した先の日本がどんな姿になっているのかだ。首相はいくつかの将来像を数字を挙げて示したが、なかでも一番重要だとしたのは、聞き慣れない指標だった。「1人あたりの国民総所得(GNI)」という。これが、10年後には今より150万円以上増えるのだそうだ▼GNIを増やすことにより、働く人々の「手取り」が増え、「家計」が潤う。首相はそういう。とすると4人家族だと600万円も年収が増えるのか。ほんとうかね、というのが大方の反応ではないか▼国民総所得の「所得」とは、一人ひとりの年収とは違う。そこには日本企業の海外での稼ぎも入っている。GNIが増えたとしても、会社がその儲(もう)けを出し惜しめば、給料は上がらず、家計も潤わない▼GNIは手取りアップと直結しない。その肝心の点を首相は説明していない。だから、熱弁にも冷める。朝日川柳に〈倍増と言わないだけの思慮はあり〉とあった。爆発せよと号令しても、された火薬の方は湿気(しけ)ている


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2013年6月 4日 (火)

2013.06.04

6月4日の作品

<作品>
なるほどと思った。先日の本紙「声」欄(東京本社版など)だ。一度だけ魔法が使えるとしたら何をしたいか。小学生同士で話していたら、ある子が言った。「魔法使いにさせて下さいといって魔法使いになる」▼それがかなえば魔法は使い放題、なんでもできる。一同、「すごい」と盛り上がった。これは憲法96条の改正と同じでは、というのが投稿した方の見立てだ。改憲の発議の要件をまず緩めるという主張の危うさを鋭く突いている▼試合に勝てないから、ゲームのルールを自分に有利なように変えるようなもの。何に使うかわからないが、とにかく拳銃をくれ、と言うようなもの。96条の改正を先行させようという発想は、様々に批判される。要は虫がよすぎませんか、と▼この件で自民党元幹事長、古賀誠氏の発言が話題になっている。共産党の機関紙「しんぶん赤旗」日曜版(2日付)のインタビューに答え、96条改正について「私は認めることはできません。絶対にやるべきではない」と言い切った▼議員を退いた身とはいえ、自民党の重鎮が宿敵というべき共産党の求めに応じるとは驚きだ。古賀氏は幼いころ、父を戦争で失った。「戦争を知る世代の政治家の責任だと思ったから」だと話している▼やはり戦争を知るOB、野中広務・元幹事長も「要件から変えるのは姑息(こそく)なやり方だ」と批判している。魔法を使おうなどと夢を見ず、穏健な保守の構えを貫く。よき伝統を引き継ぐ後輩は今の自民党にはいないのか

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