« 2013年9月 | トップページ | 2013年12月 »

2013年11月

2013年11月16日 (土)

2013.11.16

11月16日の作品


<作品>

プレーでミスをする。観衆の漏らしたため息が会場内に大きく響く。これにテニスのクルム伊達公子選手が抗議した。「もうため息ばっかり!」。少し前に話題になった▼「重苦しい雰囲気で、エネルギーを吸い取られてしまう」というのが伊達さんの主張だ。プロの態度としてはいかがかという声もあった。しかし、ため息が発する負のパワーというものは侮れない。ため息は命を削る鉋(かんな)かな、という▼♪酒は涙か 溜(ため)息か こころのうさの 捨てどころ……。憂鬱(ゆううつ)ばかりではない。疲れや困惑、怒りや失望も引き金になる。先生や上司に面と向かってため息をつかれ、深く傷ついた経験を持つ人は多いだろう▼場が暗くなり、空気が澱(よど)む。周りの人を萎(な)えさせ、伸びやかさや快活さを奪う。だから、子どもの前では漏らさないと決めている母親がいる。部下のいる職場では固く封印するという上役もいる▼JR北海道の不祥事がとどまるところを知らない。今度はレール幅の異常な数値をごまかしていたことが発覚した。この会社に限らず、自浄作用の働かない組織の姿を見ると、つい想像してしまう。質(たち)の悪いため息が内部に満ち満ち、みんなの士気を蝕(むしば)んでしまっているのだろうな、と▼もちろん心身に良く効くため息もある。美しいものを見た時や湯船につかった時の「はあー」は快い。『老人力』の赤瀬川原平(あかせがわげんぺい)さんは実際の疲れ以上にため息をつくのだという。〈そうすると溜(ため)息が疲れを追い抜いていく〉。達人の域である。


続きを読む "2013.11.16" »

2013年11月 7日 (木)

2013.11.07

11月7日の作品


<作品>

ウソという言葉を、もっと大切に保存しておきたい。そういったのは民俗学の柳田国男である(「ウソと子供」)。「歴史のある佳(よ)い言葉」だからだ。かつて上手なウソには笑いが伴った。戯れのような面があった▼秀吉が酒を禁じていた時、ある家来が真っ赤な顔で御前に出た。寒いので焚(た)き火に当たっていたとの言い分。嗅いでみると樽柿(たるがき)臭い。飲んだに相違ないと迫るが、答えていわく、柿の木を焚いておりました。太閤(たいこう)は笑っただろうと柳田はいう▼ウソらしきウソはつくとも、誠らしきウソはつくな。柳田によれば、本当でないとすぐわかるのがウソであり、「相手を視(み)て常にその智力(ちりょく)相応に」繰り出すのが本来である。ここには作法があり、身につけるには修行が必要なのだった▼食の偽装の際限ない広がりにはあきれる。しかし、これをウソつきとなじるのは柳田流にいえばウソに失礼ということになる。調理された「芝エビ」を本物でないと見破るのは私たちには不可能に近い▼どうせ味はわかるまいと客を見くびっていたのだろう。偽るとは真実を隠し人をだますことだが、欺くという言葉もある。嘲笑(あざわら)うにも通じるらしく、相手を馬鹿にして操るという意味が加わる。今回、嫌な感じがするのはまさにこの点だ▼ちなみに柳田は幼児のウソを「いたいけな智慧(ちえ)の冒険」と慈しんでいる。叱るでなく、信じた顔をするでなく、興ざめするでもなく、存分に笑うのがよいという。そうすれば明るく元気に育つだろう、と


続きを読む "2013.11.07" »

2013年11月 2日 (土)

2013.11.02

11月2日の作品


<作品>

「放く」と書いて「こく」と読む。いささか品を欠くけれども、何かを体の外へ放つことを表す。若い人たちは「調子放いて……」などと言う。調子に乗る、図に乗るの意味だが、さて自民党である▼昭和の名文記者、門田勲のユーモラスな一節を思い出す。「通勤で混み合う電車の中の広告に、真っ赤な蛸(たこ)の画(え)があった。ねじ鉢巻で、盃(さかずき)をもって踊ってる。えらく景気のいい蛸だ。蛸は自民党かもしれない」。前にも引いたが、数の力で我が世の春をうたった頃の文だ▼今は特定秘密保護法案である。これほど危うい法案を短期国会で通そうとすること自体、数を頼んだ驕(おご)りではないか。同じ流れで、新聞の首相動静もマル秘にという発言が、元閣僚から事も無げに飛び出してくる▼さらに、婚外子の相続差別を違憲とした最高裁決定に公然と異論が湧き、三権の一角を軽んじる。新任のNHK経営委員を首相にごく近い人たちで固めたがる。どこか怖いものなしの感がある▼後者について案じる声は少なくない。「みなさまのNHK」が「あべさまのNHK」にならないか、と。他にも原発あり、改憲あり。経済だ、株だとかまけるうちに面舵(おもかじ)いっぱい、気がつけば国の鼻先はあらぬ方に向いていたと悔やむのは避けたい▼景気のいい安倍政権に自民党のリベラル派は蒸発してしまったかのようだ。野党はどうにも影が薄い。「決められる政治」はいいが、アクセルだけの車は怖い。大事なのはブレーキだと古今の歴史は教えている


続きを読む "2013.11.02" »

« 2013年9月 | トップページ | 2013年12月 »

フォト