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2013年12月

2013年12月29日 (日)

2013.12.29

12月29日の作品


<作品>

きのう、雲ひとつない関東平野の青空を見上げ、ふと有名な詩句が頭に浮かんだ。西脇順三郎の「天気」である。〈(覆(くつがへ)された宝石)のやうな朝/何人か戸口にて誰かとさゝやく/それは神の生誕の日。〉▼古朴かつ硬質なイメージが広がる。「ギリシア的抒情(じょじょう)詩」の中の一編だから、この神は古代のかの地の神ということか。ひとくちに神といっても地域により大きく違う。では日本の神とはいかなるものか。今さらながら確かめたくなった▼国語学者の大野晋(すすむ)が残した研究をひもとく。われらの神は唯一の存在ではない。ご存じ八百万千万(やおよろずちよろず)の神だ。もとは姿の見えない「隠身(かくりみ)」であったと大野説はいう。木や岩など憑代(よりしろ)となる場所に人間が酒食を供えて祈ると、そこに降臨する▼無数の神が日本中の山や坂、道、川、海などの場所に宿る。人々は神を畏怖(いふ)した。恐ろしい威力、超人的な力をもつと考えられたからだ。神意に背けば死を招く。だから雷やオオカミも神とされた▼古代の信仰は実に飾り気がない。司馬遼太郎も書いている。〈古神道というのは、真水(まみず)のようにすっきりとして平明である。教義などはなく、ただその一角を清らかにしておけば、すでにそこに神が在(おわ)す〉▼後の国家神道との落差に驚く。真水どころか多くの血が流され、戦場に散った人々が「神」とされた。死者を悼むのは当然だ。しかし、首相の靖国神社参拝は日本を世界から孤立させつつある。やはりもっと平穏で質朴な追悼の仕方を考えるしかない。


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2013年12月11日 (水)

2013.12.11

12月11日の作品


<作品>

駆け出し役者なら叱られそうな言葉も、名優が語れば、なるほどと人は思う。「客席に背中を向けるときはベロを出していても、客を泣かせなけりゃいけない」と六代目の菊五郎は言ったそうだ。おとといの記者会見での安倍首相の「反省」を聞いて、この芸談を思い出した▼特定秘密保護法の成立を聞かれ、「私自身がもっともっと丁寧に時間をとって説明すべきだったと反省している」。ただ六代目ほどの名優とはいかないから、「反省」がどんなものなのか透けて見えてくる▼週末にはゴリ押しの採決、週が明ければ反省の弁、にはあきれた人が多いのではないか。3日早く反省してくれていれば、審議不十分の事態は変わっていたはずなのに。もはや後戻りはないから「反省」を口にするのだとお見受けした▼首相はまた、秘密が際限なく広がる、生活が脅かされる、といったもろもろの不安を「断じてない」と打ち消した。しかし拡大解釈して使われる不安を思えば、曖昧(あいまい)さを残した言葉だけの「請(う)け判」では納得からは遠い▼俳人の渡辺白泉(はくせん)に〈戦争が廊下の奥に立つてゐた〉がある。いつしか身近にしのび寄っていた戦争が、ぬっと暗がりに立っていた。昭和の戦争のイメージを喚起する名句とされる▼秘密法に、暗がりからじっと見られているような社会はごめん被りたい。目に見えて何かが変わるものではない。だが自覚症状のないままに、この国を深いところから蝕(むしば)むおそれがある。忘れてしまわないことが大切だ


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2013年12月 8日 (日)

2013.12.08

12月8日の作品


<作品>

作家の永井荷風は浅草のようすが気になり、足を延ばした。歓楽街の人出はいつもと変わりなく、芸人や踊り子のふるまいもまた同じ。〈無事平安なり〉と日記「断腸亭日乗(だんちょうていにちじょう)」に書き記した。1941年12月8日の日米開戦から3日後のことである▼やはり作家伊藤整(せい)の「太平洋戦争日記」は、開戦翌日の新宿を描いている。〈今日は人々みな喜色ありて明るい〉。世には祝祭気分すら漂ったらしい。日本軍による真珠湾奇襲の戦果に国中が「酔っている」と、戦後回想した学者もいる▼今から思えば、その明暗に驚く。開戦の日、北海道帝大生が軍事機密を漏らしたとしてスパイの濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)を着せられた。旅の見聞を知人に話しただけだった。学生は獄中で病み、27歳で死去。後に「レーン・宮沢事件」と呼ばれ、当局による秘密独占の危うさをまざまざと物語る▼国の行く末がどうなるか、考えるよすがもないまま戦争に駆り立てられる。何の心当たりもないまま罪をでっち上げられる。戦前の日本に逆戻りすることはないか。心配が杞憂(きゆう)に終わる保証はない。おととい、特定秘密保護法が成立した▼国家安全保障会議の設置と併せ、外交や軍事面で米国との連携を強めるための法律である。その先には武器輸出三原則の見直しや集団的自衛権の行使の解禁が控える。安倍政権の野望が成就すれば、平和国家という戦後体制(レジーム)は終わる▼12・8の日付を忘れることはできない。今、忘れない日付のリストに12・6も加えなければならない

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