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2014年5月

2014年5月29日 (木)

2014.05.29

5月29日の作品


<作品>

「大きな牛が舌に乗った」という言い方を、古代ギリシャの人はしたらしい。沈黙を強いられているという意味で、よく使われる表現だったそうだ。たしかに、多弁にうんざりして、牛でも石でも乗せたくなる舌が、ときおりある▼こちらの「舌」は、いっそう厄介だ。南シナ海で、中国が独自に管轄権を主張する海域は、地図上の形から「牛の舌」と呼ばれる。べろんと長い舌が、フィリピンやベトナムに沿って南へ伸びている▼国際的ルールという重しを舌の上に乗せたいが、聞く耳を持たない。海を囲む各国とも排他的経済水域を持ち、見えない線が走る波間で、中国は見張り船団をつけて海底石油の掘削を続けている▼ベトナムの巡視船に同乗した本紙記者が、一触即発の実情を伝えていた。見えるのはやはり中国の横車であり、力ずくだ。大国らしい常識があってしかるべきものを、中国船艇は海上の作法にも疎いらしい▼〈かの国にホント孔子が居たのかな〉と、これは毎日新聞の川柳欄で拝見した。論語には「徳は孤ならず、必ず隣あり」の言葉がある。徳を身につけた者は孤独ではなく必ず理解ある隣人がいる、と。独善による隣国との不和に、天上の孔子は何を思う▼外へ強く出ることで国内に募る不満をそらし、絶えざる経済成長の果実で一党独裁の安定を図っているのが、かの国の現状だろう。尖閣問題を抱える日本にとって南シナ海はひとごとではない。有効な重しを講じるための国際協調を、冷静に探りたい

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2014年5月 9日 (金)

2014.05.09

5月9日の作品


<作品>

西郷隆盛の遺訓集に〈文明とは道の普(あまね)く行はるゝを賛称(さんしょう)せる言(げん)にして〉とある。道義なり道徳なりによって世の中が動いていくことを文明という。文明は豪壮な宮殿や華美な衣服のことではない、と▼細川護熙元首相はこれに同感だといい、原発をどうするかは日本の国の文明のあり方にかかわると強調した。おととい発足した「自然エネルギー推進会議」での発言である。脱原発をめざす小泉純一郎元首相との二人三脚が再び始まった▼過去の人たちだとか冷ややかな見方もあるが、世論に与える影響はあろう。今後は選挙にはかかわらず、国民運動に徹するという。賢明な手法だ。先の都知事選で脱原発側が二つに割れたことを踏まえたか、幅広い結集を最優先している▼その兆しは、おとといのパネル討議で見えた。精神科医の香山(かやま)リカさんや経済学者の金子勝(まさる)さんは、かつて小泉政権の政策を批判していた。それがいま、脱原発の一点でともに動くことになった。縁は異なもの、である▼金子さんは今回の会が「時代の座標軸の変化を象徴している」という。保革や左右といった旧来の政治的立場を超えた連帯が求められ、現に生まれつつあるということである。福島の原発危機はそれだけの衝撃を、この文明に与えた▼新たな連携について小泉氏はいう。「一緒にできることがあれば一緒にやる。別々にやることがあれば別々にやる」。原発に限らず、互いの違いを認めつつ必要なら手をつなぐ。そんな成熟した態度が大切だ

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2014年5月 3日 (土)

2014.05.03

5月3日の作品


<作品>

「バナナの輪」が世界に広がっている。先月末、サッカー・スペインリーグの試合で、観客がブラジル人選手に向けてバナナを投げ込んだ。サル扱いを意味する侮辱であり、人種差別である▼当の選手はこともなげに拾って皮をむき、一口ほおばって競技を続けた。そのクールな態度が称賛を呼んだ。ブラジルのスター、ネイマール選手はバナナを手にした自分の画像をネットに掲げ、「俺たちは皆サルだ」と書いて抗議の意思を示した▼元日本代表監督のジーコさんやインテル・ミラノの長友佑都(ゆうと)選手も輪に加わった。誰に指図されたのでもないだろう。差別反対を訴えるうねりの、あっという間の広がり方は爽快ですらある。この世界にはまだ希望があると感じさせる▼最近の我が世相を顧みる。サッカー競技場に「日本人のみ」の横断幕が出現した。四国の遍路道でも外国人排斥の貼り紙が現れた。ヘイトスピーチの当事者は、憲法が保障する表現の自由を盾に正当性を主張する▼もとより差別は自由を奪う。例えばナチスの記憶を受け継ぐドイツは、自由の敵には自由を与えない。ヘイトスピーチは法で罰せられる。不寛容を許さない姿勢は「たたかう民主制」と呼ばれる▼ただ、そこには、誰が敵かを権力が恣意(しい)的に決める危険性も潜む。だから、日本国憲法は自由の敵を初めから排除はしていない。この場合、敵にまず立ち向かわなければならないのは社会であり、個々人ということになる。そう、あのバナナの輪のように


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