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2015年4月

2015年4月21日 (火)

2015.04.21

4月21日の作品


<作品>

人の世において出処進退は難しく、地位に恋々(れんれん)として晩節を汚した人は少なくない。〈散りぬべき時知りてこそ世の中の花も花なれ人も人なれ〉。細川ガラシャ夫人の辞世の歌がよく口に上(のぼ)るのも、引き際の難しさゆえだろう▼サラリーマンには定年がある。作家の安部公房が、定年のことを「世間公認の成功率百パーセントの殺し屋」と表現していた。穏やかならぬジョークだが、もちろん職場から消えるという意味である▼暦が決めてくれる引退と違い、スポーツ選手は悩むようだ。芸能や芸術に比べて盛りは短く、円熟とは衰えを抱え込むことと同義といえる。去就の葛藤(かっとう)は凡人には計り知れない▼サッカーの三浦知良(かずよし)選手の、素晴らしいゴールだった。48歳で現役を続ける元日本代表の花形は、日曜のJリーグ2部の試合で自身の持つ最年長得点記録を更新した。ピッチの外の話がいい▼1週間前の日曜、野球解説者の張本勲さん(74)がテレビで「もうおやめなさい。若い選手に席を譲ってやらないと」と発言し、物議を醸(かも)した。聞いた三浦選手は「もっと活躍しろと言われているんだなと思った。激励されたと思って頑張る」と語っていた▼感心した張本さんが「あっぱれ。ふつうはクレームをつける」と試合前に番組で讃(たた)えると、応えるようにゴールを決めた。とかく売り言葉に買い言葉、悪態の応酬の多いご時世に、一吹き、さわやかな風が渡っていった。かっこいいとは、こういうことだ。まだまだ散るべき時にあらず

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2015年4月 8日 (水)

2015.04.08

4月8日の作品


<作品>

子どもの頃の時間はゆっくり流れる。大人になると時間はたちまち経過する。なぜだろう。信州大の山沢清人(やまさわきよひと)学長は4日の入学式で、脳科学者の言葉を引いた。「周りの世界が見慣れたものになってくると、時間が速く過ぎ去っていくように感じられる」▼なるほど見るものすべてが新鮮な子どもと、大人との違いは明らかだ。だから山沢さんは学生に「自力で時の流れを遅くする」ことを勧める▼新しいことを学び続ける。新しい場所を訪ねる。新しい人に会う。すると脳の取りこむ情報量が多くなり、時間はゆったりしてくる。それが創造的な思考を育てることにつながるのだという。学びへの、遠目が利いたいざないである▼こちらはどうも近いところばかり見ているのではと感じられる。来年度から使われる中学校教科書の検定結果が、おととい発表された。領土問題や歴史認識で、日本政府の見解や立場についての記述が増えているのが特徴だ▼だが、政府見解といっても政権が交代すれば変わりうる。自国だけでなく、他国の主張も知らなければ理解は深まらない。検定基準の改定を含め、その意向を反映した教科書にしたいという安倍政権の思いが前に出すぎていないか▼息苦しさは学びにふさわしくない。京都大の山極寿一(やまぎわじゅいち)総長はきのうの入学式で、世界は答えのまだない課題に満ちていると述べた。失敗や批判に楽観的であれ、「異色な考え」を取り入れよ、と。広々とした心持ちで、ゆったりと学びたいものである


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2015年4月 6日 (月)

2015.04.06

4月6日の作品


<作品>

沖縄の墓は大きい。詩人の山之口貘(ばく)が故郷の墓について書いている。一種の建築物のようなもので、内部は広ければ10畳ほどあり人が立って歩けると。その随筆には、墓の中にむしろを敷いて、三味線に似た三線(さんしん)を奏でる人が出てくる▼きのうは二十四節気の清明だった。天地が明るく、清々(すがすが)しい空気に満ちてくるころ。沖縄では「シーミー」と呼び、この季節に親族そろって墓参をする。「重箱の御馳走(ごちそう)をひろげ祖先の霊達とのおつきあいをするのである」と貘さんは書く▼沖縄では俳句の季語に「清明祭」があって、墓前で親族が絆を深める内容の句が多い。大切な年中行事の一つだが、代々の墓が米軍基地内にある人たちもいる。許可をもらって入り、供養するのだという▼普天間飛行場では、今年は12日の朝9時から夕4時まで許可になるそうだ。それも年に1度。こんな墓参りがあるだろうか。取り上げられた土地は返還されるのが当然で、辺野古への移設は筋が違う――翁長雄志(おながたけし)知事の主張は胸に届くものがある▼知事と政府の菅義偉(すがよしひで)官房長官が会談をした。歩み寄る一歩か、背を向けて離れる一歩なのか、よく見通せない。少なくとも国側は、会ったことをもって強硬姿勢の免罪符としてはなるまい▼沖縄はいま、「うりずん」の響きもうるわしい若夏のとき。しかし70年前、この季節に悲惨な沖縄戦は始まった。歴史の縦糸の先に基地の問題がある。国土の0・6%にすぎぬ島に押しつけてきた、負担の総量を思いたい


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